記事の中で、富山さんはAI時代に生き残れる働き手を「二種類」に分けていた。ひとつは、AIをスーパー部下として使いこなし、グローバルな判断ができる「優秀なボス」。もうひとつは、現場で身体と感情と技能を使って「1次情報」を取りに行くブルーカラー的な働き手。
読みながら思ったのは、この二種類は実は「一人の人間の中に同時に必要なもの」なのではないか、ということだった。
現場に出て1次情報を取る。その情報をもとに、ためらわずドラスティックに判断する。それを繰り返す。つまり「一人社長」のような働き方だ。大企業の歯車として稟議書を回すのではなく、自分が現場の最前線に立ち、見て、感じて、決める。そのサイクルを自分一人で完結させる。
1次情報、というのは今年に入ってから特によく考えるキーワードだ。
誰かが咀嚼した情報ではなく、生の現場から直接拾い上げた情報のこと。顧客の表情、商談の場の空気、言葉にならないニーズ、まだ問題とも呼ばれていない気配——これらはすべて1次情報だ。AIがどれだけ賢くなっても、「その場にいなければ得られない情報」だけは、まだ人間の特権として残っている。
そして1次情報を持っている人間だけが、正確な問いを立てられる。問いが正確であれば、AIはものすごい速さで「答え」の候補を出してくれる。逆に、1次情報なしで作られた問いは、精度が低い。AIに精緻な誤答を出させるだけになる。
1次情報を取りに行く力 × ドラスティックに判断する覚悟 = AI時代の「一人社長」型の働き方
「中間管理職が一番厳しい」という富山さんの指摘は、正直なところ刺さった。
中間管理職というのは、上からの指示を下に伝え、下からの情報を上に整理して届ける「翻訳者」の役割を担ってきた。しかしその翻訳作業こそが、AIが最も得意とするものだ。議事録の要約、報告書の作成、部下の進捗管理——これらはすでにAIが担いつつある。
中間管理職として組織の中に立つ人間が残るためには、「翻訳者」をやめて「情報の源泉」になるしかない。現場に出て、誰も拾っていない1次情報を掴んでくる人間。その情報をもとに、組織の上にも下にも「本当の問いはこれだ」と言い切れる人間。そういう役割に変わっていくしかないと思う。
「一人社長」という言葉は、会社を持つという意味ではない。
自分が現場の最前線にいて、1次情報を感覚で受け取り、それを判断に変える——その一連のプロセスを他人に丸投げしない、ということだ。誰かが分析した情報を待つのではなく、自分の足で現場に行く。誰かの意思決定を待つのではなく、自分が決める。誰かの評価を待つのではなく、目の前の顧客から直接フィードバックをもらう。
これは必ずしも「起業」を意味しない。大きな組織の中にいても、この姿勢を持つことはできる。むしろその姿勢を持っている人間だけが、AI時代の大きな組織の中で価値を発揮できる、と今は思っている。
富山さんが「プライドを捨てて現場に飛び込め」と言っていた。
それは物流の現場でも、介護の現場でも同じことだと思うし、ホワイトカラーの仕事の文脈でも同じだと思う。要するに「現場から離れた場所で情報を加工する仕事」から「現場そのものに踏み込む仕事」へのシフトだ。
ファーストワンマイル、という言葉を最近よく考える。問いが生まれる前の地点、霧の中に最初に踏み込む一歩。それはつまり、現場に出て1次情報を取る行為そのものだ。誰かが言語化した問いに答えるのではなく、まだ誰も問いとして設定していない「何か」を感じ取りに行く。
その一歩を踏める人間が「一人社長」として機能できる。そういう意味で、1次情報を取りに行くこととドラスティックに判断することは、セットだ。情報があれば判断の根拠が生まれる。判断の根拠があれば、速く、迷わず動ける。
自分への戒めとして、書き残しておく。
情報をもらうのを待つな。現場に出ろ。
分析を待つな。感じたことを信じて、問いにしろ。
承認を待つな。決めろ。
評価を待つな。目の前の人に聞け。
AI時代に「スーパー部下」を持てる人間になるためには、まず自分がスーパーなボスでなければならない。それはポジションの話ではなく、姿勢の話だ。1次情報を取り続け、それをもとにドラスティックに判断する——そのサイクルを止めないことが、今の自分にとっての仕事の核心だと思っている。
2026年4月24日 記